よくわかる株式譲渡|【図解入り】初心者向け基礎知識

株式譲渡においては売り手側にメリットが大きいと言えますが、売り手側株主にはさまざまなケースがあり、留意しなければならない点がいくつもあります。

この記事では株式譲渡の基礎知識をわかりやすく解説します。

<この記事のポイント>

  • 株式譲渡とは
  • 株式譲渡のメリット・デメリット
  • 株式譲渡のプロセス
  • 株式譲渡の問題点

株式譲渡とは

株式譲渡とは、売却会社の株主が保有する株式に対する対価を支払い、引き換えに株を譲渡するものです。

売却会社の「支配権の取得」または「経営に参画」を目的として行われます。

中小企業のM&Aでは最も一般的なスキームで、成約したM&Aの約7割が株式譲渡と言われています。

M&A対象会社が非上場企業の場合

株式譲渡では、対象会社によってケースが異なります。

売り手側企業が非上場企業の場合は、買い手側と売り手側企業の株主との相対取引となります。

例えば上図のように、株式譲渡対象「株式会社X社」の株式は社長が40%を保有し、残りの60%を50人以上の株主が広く分散して保有している場合で見てみましょう。
買い手は広く分散している株主と直接相対で譲渡取引を実行する必要があり、目標とする議決権比率の株数を取得するのが困難になります。

このような場合には、株式譲渡ではなく、株式交換になるケースがあります。

株式交換

株式交換ではM&A対象会社の株式を強制的に買い手企業に取得させられます。

上図のようにM&A対象会社α社の株主Aにβ社の株主Bの株を分配することで、β社は株主Aが持つα社の株を強制的に取得できるようになるのです。

ただし、株式交換は100%子会社化以外の持分割合の選択肢がありません。

株式譲渡の方法

株式譲渡の方法は、主に以下の3つです。

  • 相対取引
  • 市場買付け
  • 公開買付け(TOB)

それぞれの手法について、以下で具体的に見ていきましょう。

相対取引

相対取引とは「買い手」と「売り手」が直接取引する手法です。
非上場企業の場合は、相対取引でのみ株式譲渡が可能。

買取価格については、相対なので株主ごとに異なります。

しかし、以下の内容を考慮して、基本的には同一価格で買い集めます。

  • 別交渉で価格を決めていては時間がかかる
  • 株主間で価格の違いに不満が生じる

市場買付け

市場買い付けは、証券取引所の市場を介して株式を買い集める手法で、取引においては「5%ルール」という規定が定められています。

5%ルールとは、「発行済株式総数」「潜在株式総数」の取得合計が5%を超えた場合、その取得の日より5営業日以内に大量保有報告書を管轄の財務局へ提出しなければならないというものです。

大量保有報告書を提出した後は、保有割合に1%を超える変動があった場合は変更報告書の提出が必要となります。

市場買付けは、買主の買付け動向が明らかになり株価が高騰する恐れがあります。そのため、過半数を求めるような場合には不向きです。

公開買付け(TOB)

公開買付け(TOB)とは、公告により買付けの申し込みを勧誘して、不特定多数の株主から市場外で株式を買い集める方法です。

TOBでは以下のことが定められています。

  1. 買付者が買付期間、買付数量、買付価格等をあらかじめ開示
  2. 株主に公平に売却の機会を付与

また、金融商品取引法では、上場会社等の株式取得について以下の場合はTOBによることを強制しています。

  • 多数の者(60日間で10名超)からの買付け ⇒ 買付け後の所有割合が5%を超える場合
  • 著しく少数の者(60日間で10名以内)からの買付け ⇒ 買付け後の所有割合が3分の1を超える場合
引用元:金融商法取引法

株式譲渡のメリット・デメリット

株式譲渡のメリットデメリットは、以下のとおりです。

メリット・株主総会の承認や債権者保護手続が不要
・独立性を保ちやすい
・過半数の株式を取得すれば支配権を確保することができる
デメリット・シナジー効果(相乗効果)が発揮しにくい
・簿外債務も引き継がなければならない
・株主が分散している場合、すべてを買い集められない場合がある

株式譲渡はメリットだけではないので、デメリットも考慮した上で、行うべきか行わないべきかを判断すると良いでしょう。

株式譲渡のプロセス

譲渡制限株式の相対取引株式譲渡での法定手続きは上の図表のとおりです。

  • トップによる株式譲渡の大筋合意
  • 基本合意作成・取締役会承認・基本合意締結
  • 株式譲渡契約調印

上記3つに関しては、独禁法・金商法・市場関連の手続きも必要になります。

株式譲渡契約調印からクロージングまで

売買代金決済までの間は、数週間開けることが一般的です。

数週間あけるのは、金融機関などとの調整を図るためなどの目的があります。
中小規模のM&Aでは契約調印当日決済でクロージングするケースもあります。

クロージング後

クロージング後はなるべく速やかに下記の内容を行います。

  1. 株主名簿の書き換え
  2. 役員交代の決議:新たな株主のもとで臨時株主総会にて
  3. 新たな代表者の選任決議:取締役会にて

臨時株主総会によるその他の決議案

  • 買収対象企業の商号変更
  • M&Aにより定款を変更
  • 退任する役員に退職慰労金を支給

などは、役員交代と合わせて臨時株主総会で決議するのが一般的です。

クロージング当日中に、臨時株主総会から代表者選任の取締役会、登記申請まで済ませられるため、中小企業では一気に終わらせる傾向があります。

株式譲渡のプロセス(譲渡制限株式)

株式譲渡のプロセスについては、以下の表のとおりです。

主な手続き内容
株式譲渡契約書の締結売り手買い手間で締結される。
通常、契約書の締結に際して、当事者の取締役会決議が必要となる。
譲渡承認の請求対象会社が、譲渡制限株式発行会社である場合、 売り手が対象会社の取締役会に譲渡承認の請求を行う。
譲渡承認の取締役会決議対象会社が譲渡制限株式発行会社である場合、 対象会社において株式譲渡のため取締役会の承認決議を行う。
公正取引委員会への届出独占禁止法における企業結合規制に基づく事前届け出。提出要件に該当する場合には、 少なくとも30日間の待機期間を経なければクロージングを迎えられない。
売買代金の決済(クロージング)株式譲渡代金の決済。株券発行会社の場合には、 売り手から買い手に対して株券の交付が行われる。
株主名簿書き換えクロージング後に買い手は対象会社に対して、 株主名簿の書き換えを請求する。
(出典)森山保(2016).「M&Aスキーム」選択の実務 中央経済社

<注意点>
平成26年会社法改正において、親会社による重要な子会社株式の譲渡は株主総会決議が必要(会社法467条1項2の2)。
譲渡株式の帳簿価額が親会社の総資産の5分の1を超え、かつ、譲渡後の親会社の議決権が50%以下となる場合には上記手続のほか、株主総会決議が必要。

株式譲渡の問題点

中小企業の株式譲渡においてよく見られる問題点を挙げます。

株主が分散しているケース

株式譲渡で会社を売却する際、オーナー経営者が株式を100%保有している場合はオーナー経営者の任意で売却できます。
しかし、他者に株式を分配していると、株式売却に対する同意を取得しなければいけません。

例え、一族経営だとしても相続などで株式が広く分散するなどした場合は、コンタクトをとるだけでも難しいケースもあります。

委任事項

M&Aではオーナー経営である大株主が他の株主から委任を受けて契約を締結しますが、株主の意見を集約する方法は、大株主が他の株主より委任状を取り付けて、大株主に相手との条件交渉や諸手続を委任されるのが一般的です。

委任事項の例は、以下のとおりです。

  • 株式譲渡契約書の締結権限
  • 株価等条件の受領権限
  • 株式譲渡に係る譲渡承認請求および譲渡承認通知書の受領権限
  • 株式名義書換請求権限
  • コンサルタントへの手数料の支払権限

株主が未成年者や成年被後見人のケース

株式譲渡において、株主が未成年者や成年被後見人等の制限行為能力者である場合は、保護者の特定と確認が必要です。

実際に譲渡する際には、その保護者が代理するか、保護者の法的同意が必要となります。

未成年の場合

株主が未成年者の株式譲渡では、未成年者が親権者または未成年後見人からの同意を得るか、親権者もしくは未成年後見人が未成年者を代理して行います。

成年後見人の場合

株主が成年被後見人の株式譲渡では、成年後見人が成年被後見人に代わって手続きをします。

ただし、以下2つのケースがあります。

  • 成年後見監督人が設けられている場合…成年後見監督人の同意が必要
  • 成年後見監督人が設けられていない場合…家庭裁判所に事前の相談(とくに株式譲渡価額が多額になる場合)

株主が認知症など、判断能力がないケース

加齢や事故等により、認知症、知的障害、精神障害等、株主の判断能力が認められない場合には、成年後見の手続きが必要です。

ただし、手続きを通して成年被後見人または被保佐人が設けられた場合には、その時点で取締役の欠格事由に該当し「退任」となります。
退任により株式会社の役員の最低人数が満たされているかどうかも事前に確認しなければいけません。

名義株があるケース

名義株がある際には以下のように対応しましょう。

  1. 出資者を確認する
  2. 株主総会で議決権を行使している人を確認する
  3. 名義株主に対して配当を行っていないことを確認する
  4. 名義株主に対して株券を渡していないことを確認する
  5. 名義貸しの理由の合理性
  6. 上記が確認できたら、名義株を処理する

行方が分からない株主がいるケース

所在不明株主が所有する株式は、会社法上の手続に従い、裁判所の許可を得て売却が可能です。
ただし、所在不明株主の要件に当てはまらないケースもあるので、事前に確認しておきましょう。

行方が分からない株主が所有する株式を取得するには、以下の方法が有効的です。

  • 所在不明株主の株式として売却または競売する方法
  • 不在者財産管理人を選任し株式譲渡をする方法
  • スクイーズ・アウト等

従業員持株会の株式は譲渡するケース

従業員持株制度とは、従業員が自社株の取得や保有することにより従業員の財産形成を会社が奨励するための制度です。

大半の従業員持株会は、民法第667条が規定する「民法上の組合」よって設立されています。
民法上の組合としての従業員持株会が有する株式は、従業員持株会の会員の共有物であり、従業員持株会の会員がそれぞれ株式の持分を有しています。

従業員持株会の株式を譲渡するには、会員全員の同意を得るか、従業員持株会を解散させ清算手続きを行います。

株主が死亡したケース

株主が死亡した際は、故人の株式の相続人を確定させ、株主名簿の名義書換請求を会社に行います。

まとめ

この記事では株式譲渡の基礎知識を次のポイントに分けてわかりやすく解説してきました。

  • 株式譲渡とは
  • 株式譲渡のメリット・デメリット
  • 株式譲渡のプロセス
  • 株式譲渡の問題点

株式譲渡は実行されたM&Aの7割を締める手法です。
しっかりと、理解してビジネスの役に立つようにしていただければ幸いです。